2019年1月2日にNHKのEテレにて「平成ネット史(仮)」という番組(前編)が放送されました。
「Windows95」の発売から、わずか20余年。まるで“魔法”のように世界を繋げ、生活に欠かせないものとなった「インターネット」。「テキストサイト」や「2ちゃんねる」から、「着メロ」「写メール」、そして「フェイクニュース」まで、平成の終わりに、その時代を活躍した多彩なゲストをスタジオに迎え日本のネット史を紐解く。
これらのサービスの中には、10年~20年の間に消滅したもの、往時の勢いがすっかり衰えてしまったものもあれば、今も業界のトップを走っているサービスもあります。
「廃れてしまったサービス」と「生き残ったサービス」の違いは、どういった点にあったのでしょうか。
上記を考えることで、偉大な投資家が重視する「経済上の堀(Economic Moat)」という概念について理解を深めてみませんでしょうか。目次
1.経済上の堀とは
2.ニコ動にみるネットワーク経済
3.マイクロソフトとNEC
4.プロバイダ業界
5.まとめ
1.経済上の堀とは
(1)概要
世界最高の投資家として名高いウォーレン・バフェットは、優れた企業が持つ他社に参入を許さない優位性のことを「堀」と呼び、投資にあたっての重要な判断材料としています。なぜ「堀」が重要なのか。
成長性の高い、利益率の高い魅力的な市場は、資本主義経済のもとでは新規参入を招き、激しい競争に巻き込まれます。ある企業が他社に対する優位性を持っていなければ、市場全体は拡大してもシェアは落とし、市場の利益率も徐々に下がっていってしまうからです。
(2)堀の種類
では、「経済上の堀(Ecconomic Moat)」にはどういった種類があるのでしょうか。
モーニングスター社で株式リサーチ部門のディレクターを務めるパット・ドーシーは、「千年投資の公理」という書籍で以下の4項目に分類しています。
②コスト的な優位性に優れている
③顧客に他社製品に乗り換えることを躊躇させる④ネットワーク経済
以下では、この4分類に沿った形でお話をさせていただきます。
2.ニコ動に見る「ネットワーク経済」
(1)ニコ動が持つ経済上の堀は
インターネット時代の特徴の一つに、個人が情報発信をし、コンテンツを制作するようになった、という点があるように思います。この流れの中で大きく成長したサービスと言えば、「平成ネット史」でも紹介された「ニコニコ動画」があります。
ニコニコ動画自体はプラットフォームであり、自社でコンテンツは制作しません。
ただ、個人が様々な作品を発表することで、その視聴者が集まるようになり、すると視聴者が多いからニコ動で発表する人も増え、更に視聴者が集まる…というポジティブフィードバックが広がっていきました。
このように、利用者が増えるごとにサービスの魅力が向上していくことを「ネットワーク経済」といい、ニコニコ動画はこの「経済上の堀」を有していました。
(2)浸食される堀
しかし、ニコニコ動画自体は、今では利用者は頭打ちとなっており、有料課金ユーザーの人数も右肩下がりとなっています。他方で、競合サービスであるYoutubeやビリビリ動画等は好調と聞きます。ネットワーク経済という競争上の堀を有していたのに、ニコ動はなぜ競争に負けてしまっているのでしょうか。
もちろん、サービスや機能面が劣っていたということも大きいと思いますが、それ以外に次のような点が影響していると考えられます。
・権利者の申し立て
ニコ動に投稿されるコンテンツは、いわゆる二次創作というジャンルが多かったのです。二次創作の場合、動画作成者以外に著作権者がおり、彼らより申し立てがあれば動画を削除しなければなりません。
逆に著作権者の立場で言えば、「無形資産」という経済上の堀を有しているわけですので、このように他社のコンテンツの使用に制限を加えることができるのです。
・動画投稿者のYoutubeへの移行
動画投稿者を他のプラットフォーム(Youtube)に奪われてしまったことも大きいと思います。Youtube上で動画を公開するのであれば、動画再生数に応じてグーグルから広告収入を得られ、いわゆる「youtuber」として生計を成り立たせることもできるわけです。趣味として無償で動画を投稿するよりも魅力的であることは言うまでもありません。ネットワーク経済は、参加者が増えるごとにそのプラットフォームの魅力を高めるものでしたが、逆に参加者が減少していけば、その減少ペース以上にプラットフォームの魅力が落ちてしまいます。
ネットワーク経済によって拡大をしたニコ動は、ネットワーク経済の逆回転によって、今まさに苦戦をしているといえそうです。
3.マイクロソフトとNEC
(1)マイクロソフトは今でも強い
「平成ネット史」でも真っ先に取り上げられ、Win95でインターネット時代を切り開いたマイクロソフト社は、現在でもパソコンOSおよびOfficeシリーズにおいて圧倒的な市場シェアを有しています。マイクロソフトが今も強い競争力を持っている理由も、「ネットワーク経済」で説明されます。
皆がWindowsやofficeを使用しているから、様々なPCやシステムもこれに対応した形で製造・構築され、そうするとまた皆がWindowsやofficeを使用するようになる。この経済上の堀が働いているため、マイクロソフト帝国はなかなか陥落しないのです。
(2)NECと「堀」となるコスト優位性
「平成ネット史」の中では、Windows95と合わせて当時の代表的なPCとしてNEC「PC-98」が映っていました。NECのパソコン事業も、当時の日本で圧倒的なシェアを有していたものの、MS社とは対照的に、徐々にシェアおよび収益を落としていき、遂に2011年にはレノボに売却されることとなりました。
パソコン製品については、2000年代にコスト競争力の高い中国で生産・組立を行う分業体制が急速に構築されました。
NECもこの流れに沿った生産移管、工場での地道な原価低減を進めていたと思いますが、それは他社でも追随できる内容であり、競争上の堀と呼べるほどのコスト競争力は生み出せなかったのです。
「経済上の堀(Economic Moat)」は、他社がマネできないものでなければならないのです。
4.プロバイダ業界
(1)プロバイダ業界も堀を持つ
インターネットの誕生により生まれたビジネスとして、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)事業があります。一般的な消費者は、そもそも普段どのプロバイダ会社を使用しているか意識しませんし、毎月の料金もそこまで高額ではありません。また、業者を切り替えるとしたら、設定作業に大きな手間がかかることも予想されます。
これらの結果、プロバイダビジネスは解約率が低くなっています。すなわち、「顧客に他社製品に乗り換えることを躊躇させる」という「経済上の堀(Economic Moat)」を有しているといえそうです。
(2)しかし競争相手も同じ堀をもっている
しかし、ISP業界の特徴としては、自社だけではなく、他社も同じように「堀」を有しているということが挙げられます。このため、他のISPから顧客を奪おうとすれば、多額のコストが掛かってしまいます。例えば、上場しているISP事業者として「朝日ネット(3834)」という企業があります。同社は、過去10年間で売上を約1.5倍に拡大しているのですが、利益はむしろ減少しているのです。
5.まとめ
以上の点をまとめると次の通りとなります。
〇優れた企業が持つ他社に参入を許さない優位性のことを「堀」という
〇堀は企業の成功を占う重要な判断材料となる。
〇堀にはいくつか種類がある。
〇堀は競争相手から浸食されることがある
〇他社に真似できないものでないと優位性には繋がりにくい
ちなみに「平成ネット史(仮)」の後編は本日(1/3)の11時から放送されますので、興味のある方はぜひご覧になっていただければと思います。
僕も全裸で正座待機したいと思います。(平成並感)
(参考書籍)
「千年投資の公理」パット・ドーシー
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