【読書メモ】株デビューする前に知っておくべき「魔法の公式」

バリュー投資に関する良書として有名な『株デビューする前に知っておくべき「魔法の公式」』を読みました。


本書で紹介される「魔法の公式」に従って1988年~2004年まで米国市場で投資を行った場合、S&P500を大きく上回る年率30.8%のリターン(!)を得られたとのことです。

本書を読んで感じたことをツラツラ書かせていただきます。

「魔法の公式」は単純な低PER・高ROA戦略ではない

グリーンブラットの「魔法の公式」では、利回りと資本収益率がともに高い上位30位の銘柄に投資をします。

具体的には、対象企業について利回りと資本収益率それぞれを1位から最下位までランキングしていき、その順位を合計した数値を低い順に30銘柄購入していくという手法です。

ただし、単純に利回りが高く(PERが低く)、ROA(またはROE)の高い銘柄を選定するのではなく、資産の中身や資本構造を加味した一捻りを加えており、この点が興味深いなと思いました。

グリーンブラット式の利回りとは

以下の通り計算します。

EBIT(金利税引前利益)
÷ EV(企業価値)

EBITとは、当期利益に支払利息と法人税を足し戻したものです。日本基準でいえば営業利益と概ね近似した利益ですね。

EVとは、電気自動車の略称ではなく「企業価値」という意味で、株式時価総額と有利子負債残高を合算した数値となります。

株式会社は、株式発行または有利子負債により資本を調達しますので、その調達した総資本を分母とするわけです。

従って、同じ株式利回りの企業でも、グリーンブラット式の利回りは異なる数値となる場合があります。

(例)
・利益10億円を計上するA・B社
・A社は株主資本100億円、有利子負債ゼロ、EVは100億円
・B社は株主資本100億円、有利子負債100億円、EVは200億円

A社
・株式利回り:10%
・グリーンブラット式:10%

B社
・株式利回り:10%
・グリーンブラット式:5%

「魔法の公式」の利回りでは、財務がしっかりしている(有利子負債の少ない)企業をより高く評価するような構造になっていますね。

グリーンブラット式の資本収益率とは

以下の通り計算します。

EBIT(金利税引前利益)
÷(正味運転資本額+純固定資産額)

計算式の分母が、総資産でも株主資本でもなく、不思議な数値となっていることに気付かれましたでしょうか?

正味運転資本額とは、営業債権(売掛金等)と棚卸資産の合計から、営業債務(買掛金等)を差し引いたものです。
事業に必要でない余剰資金(現預金や有価証券)は計算から除外されること、買掛金等の営業債務は、実質的には無利息の借入金であり、これを差し引いて計算される点が特徴です。

この方式だと、単純なROAと比べて、AmazonやAppleのように仕入れから販売までに伴う現金回収期間の早い企業は、収益率が高くなりますね。
また、現預金や投資有価証券は加味されませんので、日本企業にありがちな、過剰に現金をため込んでいる企業についても、事業資産のみで収益率を計算され、収益率が低くなりません。

純固定資産額とは、建物や設備等の有形固定資産のことです。グリーンブラットの考えでは、無形資産、特にのれんは除外することが望ましいとのことでした。

バフェットの発想に近いスクリーニング

さて、ここまで見てきたグリーンブラットの「魔法の公式」ですが、これを要約すると「バフェットの銘柄選定基準に近づけたバリュー投資のスクリーニング法」と言えるのではないでしょうか。

大投資家バフェットは、その銘柄選定にあたって「借入が少ない」「ROEが継続的に高い」「現状を維持するために大きな設備投資が必要でない」といった企業を選好することで知られています。

「魔法の公式」では、利回りを計算するときの分母を有利子負債も含むEV(企業価値)とするため、同じ利益であれば負債の少ない企業を選びますし、少ない資産で大きな利益を上げている企業であれば、現状維持のための大きな設備投資も不要でしょう。

もし条件を付け加えるのならば…

「魔法の公式」の欠点を挙げるならば、景気変動によって利益がブレやすいシクリカル銘柄を景気のド天井(高値)で購入してしまう点にあると思えます。

利回りや資本収益率を単年度で見るのではなく、景気低迷期も含めた一定期間の数値を使用するといった形でアレンジすることで、より一層「良い銘柄を安く」買えるような気がしますね。

それではまた


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