【銘柄分析】飯野海運(9119)|不動産含み益が豊富な海運会社

こんにちは。相場の養分かもねぎ(@kamonegi_kabu)と申します。

今回は多額の賃貸不動産含み益を有する飯野海運(9119)を見てみます。


目次
1.事業内容
2.財務状況
3.まとめ

1.飯野海運の事業内容

飯野海運は1899年に発足した由緒ある企業であり、海軍の舞鶴や呉鎮守府の港湾荷役業務で創業し、徐々に海運業他にも進出していきました。

1997年には、飯野海運と子会社の飯野不動産が合併、シクリカルな海運事業と安定的な不動産賃貸業の二本柱で事業を運営しています。

飯野海運 決算短信よりかもねぎ作成

それでは事業別に概況を見てみましょう。

(1)外航海運

全社売上の75%を占めるのが外航海運セグメントです。

飯野海運の船隊の特徴としては、石化製品やメタノール、潤滑油といった液体製品を輸送する「ケミカルタンカー」が全体の半数を、LNGやLPGを輸送する「大型ガスキャリア」が全体の2割を占めている点にあります。

ここで世界の海上貨物量に占める「化学品」「LNG・LPG」の比率をみてみます。
出典:三井住友銀行「海運市況動向と業界各社の戦略の変化」

世界の海上荷動き量に対する化学品(ケミカルタンカー)の比率は2.5%、LNG・LPGの比率は3.4%といずれもニッチな船種です。
貨物量が少ない割に設備管理等のノウハウが必要なため、投機的な参入者が少なく、海運業としては比較的競争の緩いジャンルと言われています。

過去10年の業績は以下の通りであり、赤字は1回、営業利益率の10年平均は2.7%です。

(2)内航・近海海運

全社売上の1割を占めるのが内航・近海海運セグメントです。
事業規模は外航海運より一桁小さいですが、実は2019年3月期だと外航海運より利益を稼いでいます。

ケミカルタンカー等を含む特殊タンク船のオペレーターとしては国内首位(子会社のイイノガストランスポートが担当。運行船腹ベースのシェアは13.3%ほど)

顧客の専用船を主体として営業をしており、出光興産(石油製品)、アストモスエネルギー(LPG)、北海道ガス(LNG)、日本ゼオン(化学品)、東ソー(化学品)等が主要顧客となっています。

過去10年の業績は以下の通りであり、赤字はなし、営業利益率の10年平均は5.8%です。

(3)不動産

足元で利益の大半を稼いでいるのが不動産業(不動産賃貸業)です。

元々は「飯野不動産」という独立した不動産企業だった経緯もあって、自社で物件開発を行う知見も有しています。ノウハウ継承の意味あり、定期的に新規物件の開発を一から手掛ける方針のようです。

保有物件は以下の通り。
基幹物件は東京都千代田区にある「飯野ビルディング」です。


初代・飯野ビルは1960年に建築されましたが、建物自体の老朽化により2007年頃から建て替え事業に着手、現在稼働しているのは2011年に竣工した2代目・飯野ビルディングとなります。

ビルは23区内の「内幸町・霞が関・永田町」エリアに立地。日比谷公園のすぐ南隣辺りですね。



この辺りは中央官公庁および国会議事堂が所在する行政・立法の中心地で、オフィス立地としても高評価・認知度を有して賃料水準も相対的に高いエリアです。
仕事の関係で聞いた話だと、空室率は東京23区平均よりも低く、相場はグレードAの大型ビルで3.0万~3.5万円/月坪くらいだそうです。


また、上記の「保有不動産一覧」には記載されていませんが、現在「新橋田村町地区再開発事業」という開発事業に取り組んでいます。

名称は新橋ですが、場所は上記「飯野ビルディング」の隣地です。

元々この辺りは、「物産ビル別館」「日本酒造会館」等の中小ビルが並んでいるエリアであり、飯野海運も角地に「東京桜田ビル」という物件を保有していました。

2010年前後より三井物産都市開発が主導して再開発の動きが始まり、2021年3月を目途に、延床面積10万㎡の大規模ビルが竣工する予定です。

完成イメージ図:東京都都市整備局HPより

建築主である「新橋田村町地区市街地再開発組合」の所有持分については以下の通りです。

・三井物産都市開発 63.976%
・日本中央競馬会 20.49%
・飯野海運 15.534%

完成時には飯野海運もビルの15%ほどを共同所有する感じなんでしょうかね?

最後に不動産セグメントの過去10年業績を

2.飯野海運の財務状況

(1)財務数値

続いて飯野海運の過去の業績推移を確認します。
数値は各年度の有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」を拾いました

赤字に陥った年度が1回ありますが、海運バブルの崩壊と飯野ビルディングの建替が重なった時期なので流石に仕方ないでしょう。
大手海運会社(日本郵船・商船三井・川崎汽船)は過去10年で2~5回ほど赤字に陥っていますので、同業種の中では良い方だと思います。

(2)資産価値

賃貸不動産に関する開示を見ると、前期末の簿価716億円に対して、時価は1,668億円と+952億円の含み益があります。

飯野海運の時価総額は398億円ですので、時価総額に対する含み益はかなり大きいですね。

また、保有する船舶についても、清算価値を計算するのであれば一定の係数を乗じて算入しても良い思われます。中古船は比較的活発なマーケットが存在し、業界紙等でも定期的に相場公表されている分野です。

(3)今後の見通し

足元の業績はあまり良くありませんが、今後回復が見込めるのかどうかを考えてみます。


まず不動産業ですが、2019年度の1Q・2Qに利益が大きく落ち込みました。

これは、飯野ビルディングに本社機能を構えていたゆうちょ銀行・かんぽ生命保険が、「大手町プレイスウエストタワー」に移転することで、空室が発生したことによります。
しかし、2019年度第3四半期決算短信によれば、

飯野ビルディングで一部事務所テナントの移転に伴い、空室が生じ、減益となりましたが、新規テナントの入居も既に開始され、まもなく満室稼働となる見込であり、収益は改善に向かっています。

との記述があり、一時的な落ち込みはすぐに解消されそうです。

更に、2021年度(翌々年度)より新橋田村町プロジェクトの賃料が上乗せとなります。
再開発組合の持分率から逆算すると、飯野海運の持分は16,400㎡(約4,960坪)ほどと推測されます。仮に賃貸の稼働床面積を10,000㎡と仮定すれば、立地的に年10億円ほどの賃料収入が上乗せになるのではないでしょうか。

不動産相場が大きく崩れない限りは、堅調な業績が見込まれると思います。


もう一つの海運業についても、2018年度4Q~2019年度1Qにセグメント赤字となりましたが、2Qで+4億円、3Qで+8億円のセグメント黒字と回復基調にあります。

市況回復の要因はいくつかありますが、息の長そうなテーマとしては、2020年1月に始まった「SOx規制」の影響が挙げられます。

「SOx規制」とは、硫黄酸化物(SOx)と粒子物物質(PM)による健康や環境への悪影響を防止するため、2020年より船舶用燃料油中の硫黄分濃度を「3.5%以下」から「0.5%以下」に強化するものです。

出典:海事分野におけるSOx規制の概要及び国土交通省の対応について

この規制により、C重油が船舶燃料として使用できなくなるため、海運会社は「スクラバー」という硫黄分除去装置を取り付けるか、硫黄分の少ない「適合油」という燃料を使用する必要が出てきました。

①スクラバーの設置
スクラバーを取り付ける場合、その期間は船舶としての稼働が止まるため、市場に供給される船舶量が減って市況の押し上げ要因となります。
また装置を搭載する分、船舶の積載量が減るというデメリットもあります。

②適合油の使用
硫黄分の少ない「適合油」を使用する場合、現行の船舶を大きく改造せずに運航させられますが、C重油と比べて高コストのため、燃料費が大幅にアップしてしまいます。

海運会社の経営に与える影響としては二つあり、一つは燃費の悪い旧式船の解撤(スクラップ)が進むこと。もう一つが船舶をその最高速度よりも低い速度で航行する「減速航行」の取り組みが広がることです。

一般に同じ船で速力を2倍にしようと思うと、燃料消費量はその2乗になると言われています。逆に言えば、最高速度の50%水準で航行すると、燃料消費量は50%よりも大幅に節約できることとなり、高価な燃料費を下げられます。(CO2排出量の削減にも繋がります。)

他方、船舶の航海期間が長くなるため市場に供給される輸送距離ベースの船腹量は押し下げられるため、こちらも市況の押し上げ要因となります。


以上の通り、SOx規制はいずれにせよ船舶需給を引き締める方向に作用しますので、今後の市況動向を底支えするだろうと理解しています。

3.まとめ

最後に現時点での株価指標を確認してみます。

・予想PER  10.0倍
・実績PBR  0.52倍
・配当利回り 4.18%(記念配あり)



株価は昨夏より少し戻していますが、引き続き最安値圏ですので投資先としては悪くないに思っています。

そう思って先日購入したら、中国の新型ウイルス問題もあって早速暴落しそうなのですが…(白目)

(参考文献・URL)
・飯野海運120年史
海事分野におけるSOx規制の概要及び国土交通省の対応について


本ブログ内で銘柄分析を行った企業の一覧を作成しました。

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