こんにちは。相場の養分かもねぎ(@kamonegi_kabu)と申します。
今回は創業150年を超す老舗企業、東レ系商社の蝶理(8014)を分析したいと思います。
蝶理は社歴が長く日本経済史を体現するような企業であり、バブル崩壊後に経営危機に陥ったものの、抜本的なリストラに成功し、近年は好調な業績が続いています。
同社の過去と現在を振り返りつつ、将来的にも魅力的な投資対象になるかどうか分析してみましょう。
目次
1.事業内容
2.財務状況
3.まとめ
以下は、蝶理株式会社が設立されてからの業績推移と、主な経営上のトピックをまとめたグラフになります。
・~60年代
1952年に東洋レーヨン(現:東レ)が国産初のナイロンを開発すると、他社に先駆け真っ先に取扱いを開始し、普及に一役買いました。
1950年代中頃より、繊維だけでなく化学品や機械の取扱いも開始し、繊維商社というよりも、複数商材を扱う総合商社に近づいていきます。
更に1961年には中華人民共和国との間で、日中友好商社第1号の指定を受け、中国との貿易取引を開始。当時は改革開放前の中国であり苦労も多かったようですが、この頃から中国貿易のパイオニアとして活躍をしています。
・70年代~80年代
設立以来業績を順調に伸ばしていった蝶理は、1970年には売上高で3,000億円を超えるまでに成長しました。
当時の総合商社の売上高を見ると、伊藤忠が2.2兆円、住友商事が1.7兆円、兼松が0.8兆円、ニチメンが0.8兆円といった水準であり、蝶理は準総合商社ともいえるポジションでした。学生の就職人気企業のトップ10近くにも位置していたようです。
しかし、好事魔多し。不動産取引の失敗で一度目の経営危機を迎えます。
1975年~79年度にかけて累計▲300億円強の経常損失を計上。過去20年間の経常利益合計が+186億円ですので、これまでの利益を全て吹き飛ばしてしまい、債務超過・倒産の危機に陥りました。
この時は、取引銀行と主要取引先の東レ・帝人・旭化成の支援を受けて経営再建を行ったものの、自己資本比率は一桁台前半と安全性に欠けたままであり、90年代以降に経営危機が再燃する伏線になってしまいました。
・90年代~00年代前半
バブル期(80年代後半~90年代)には蝶理も売上高を伸ばし、1992年度には過去最高売上(7,755億円)を記録します。
しかし、バブル崩壊により財テクと不動産取引の失敗(またか)が表面化。再び銀行と主要取引先の支援を受けて経営再建を行うこととなりますが、日本経済の低迷もあり、中々過剰債務から抜け出せませんでした。
その後、2003年に東レから着任した田中健一氏が社長に着任すると、取引先の債務免除、優先株の発行による資本増強、収益性の低い事業からの撤退等によって、ようやっと財務の建て直しに成功。(この時の様子は、田中氏の著書『仏の心で鬼になれ。:「上司道」を極める20の言葉』に詳しいです。)
・00年代後半~
再建に成功した蝶理は、収益性を重視した規律ある事業展開を意識しており、売上高はなおもピーク時の半分以下に留まっていますが、利益ベースでは2018年度に過去最高益を達成する等、見事に復活しました。
繊維商社というのは、基本的にはアパレルメーカー向けに原料の糸やテキスタイル、完成品の衣料品を販売するビジネスです。近年は、繊維商社が原料や縫製工場、物流等を全て手配したうえで、指示されたものを作るOEM、提案しながら作るODMという商売が主流となっています。
同業他社と比べた特徴としては、自動車シート用の素材に強みを持っていること、中東エリア向けのビジネスの規模が大きい点が挙げられます。
自動車用シートについては、トヨタ車(アクア、クラウン、カムリ等)、ホンダ車(フィット、N BOX等)、スズキ車(ワゴンR、スイフト等)といった幅広いメーカーに納入しており、国内では原料で60%、ファブリックで25%のシェアを有しています。
また中東向けビジネスについては、トーブと呼ばれる民族衣装で2割ほどの販売シェアを持っているとのことです。
化学品ビジネスについては、ウレタンの原料や医薬農薬の中間体、ディスプレイ用のガラス原料等が主な取扱い商品となっています。
日中間の輸出入のほか、近年は3国間貿易にも力点を置いています。
面白いところでは、某エナジードリンク向けに、20年以上も原材料供給を続けているのだそうです。
機械ビジネスについては、チリ・ボリビア・ペルーといった南米諸国への日本車の輸出が主体となっています。
メーカー別ではスズキ車に強いようです。ジムニーなんかは世界でも人気ありますよね。
事業の概要は以上の通りです。
「蝶理が他のアパレル商社と何が違うのか」と問われれば、「取扱い商材の多さや展開地域の広さです」と答えられます。
一般的なアパレル商社と、トレーディング主体だったかつての総合商社の中間に位置するような企業というイメージです。
数値は各年度の有価証券報告書における「主要な経営指標等の推移」を拾いました。
ここ数年ほどは、10%前後のROEを維持できています。
まず財務の健全性から
蝶理は創業以来、50年近く自己資本比率が一桁台であり、この「財務の脆弱さ」が弱点として付きまとってきました。
しかし、2003年頃の抜本的な再建策の実行と、その後の利益の積上げにより自己資本比率は44.6%まで改善。過去の経営危機を知る社員にとっては、「ここまで来たか」と感慨深いのではないでしょうか。
次にベンジャミングレアムの提唱した「正味流動資産価値」を見ます。
直近決算(19年3月期第3四半期)における蝶理の正味流動資産は333億円(流動資産989億円-総負債656億円)であり、一方の時価総額は382億円(自社株を除くベース)。
グレアム銘柄とまでは言えないものの、ROEが二桁水準の企業にしては割安感があると思います。
また、2022年度には経常利益で130億円を達成するというビジョンも掲げています。上手くいけば、利益は2016年度と比べて倍増する計算ですね。
過去、収益性の低い事業が経営危機を招いた反省から、総資産利益率(ROA)にもきちんと目標を設定しているものと推測します。
上記計数目標を達成するための基本戦略は以下の通りです。
近年の成長は、M&Aの活用が大きな割合を占めていますので、「新規開発・事業投資、M&A」の部分を少し掘り下げます。
過去のM&A実績を見ると、比較的小粒な繊維商社・化学品商社を頻繁に買収していることが見て取れます。
現社長である先濱氏が、「化学経済 2015年5月号」でインタビューを受けた際の記事を見ますと
以上の通り、基本的には地続きの分野で手堅い案件を手掛けることを方針としており、変な冒険をしない点は安心感があります。
・予想PER :7.21倍
・実績PBR :0.72倍
・予想配当利回り :3.47%
株価は割安圏ですが、業種的に大きく買われる銘柄でもないので、まぁ適正範囲の割安寄りくらいかなと思います。
なお、蝶理については、アクティビストファンドのストラテジックキャピタルが大幅な増配を求めて株主提案を繰り返しています。
しかし、今の経営陣や親会社の東レは、2000年代の倒産危機を覚えている世代であり、一定の資本は維持したいと思いますので、中々折り合えないのではないでしょうか。
とはいえ、蝶理は過去の経営危機を乗り越えるためにかなり大規模な増資をし、普通株式数は18.1百万株→25.3百万株と4割近く増加(株式併合を考慮)しています。
希薄化という形で株主に負担を強いた過去がありますので、余剰資金があるならば自社株買いに振り向け、経営危機前の水準に流通株式数を減らしていく、なんて落としどころはいかがでしょうか?
なお、投資は自己判断でお願いいたします。
(参考文献)
・化学経済 2015年5月号
・蝶理設立60周年記念誌
本ブログ内で銘柄分析を行った企業の一覧を作成しました。
今回は創業150年を超す老舗企業、東レ系商社の蝶理(8014)を分析したいと思います。
蝶理は社歴が長く日本経済史を体現するような企業であり、バブル崩壊後に経営危機に陥ったものの、抜本的なリストラに成功し、近年は好調な業績が続いています。
同社の過去と現在を振り返りつつ、将来的にも魅力的な投資対象になるかどうか分析してみましょう。
目次
1.事業内容
2.財務状況
3.まとめ
1.蝶理の事業内容
まずは、蝶理の沿革と現在の事業構成を確認します。(1)蝶理の沿革
蝶理の前身は、初代社長である大橋理一郎氏が1861年(文久元年)に創業した生糸問屋であり、戦前は人造絹糸(レーヨン)の取扱い、戦後はナイロンの取扱いや中国貿易のパイオニアとして事業を拡大してきました。以下は、蝶理株式会社が設立されてからの業績推移と、主な経営上のトピックをまとめたグラフになります。
蝶理社史、有価証券報告書を元に作成 |
・~60年代
1952年に東洋レーヨン(現:東レ)が国産初のナイロンを開発すると、他社に先駆け真っ先に取扱いを開始し、普及に一役買いました。
1950年代中頃より、繊維だけでなく化学品や機械の取扱いも開始し、繊維商社というよりも、複数商材を扱う総合商社に近づいていきます。
更に1961年には中華人民共和国との間で、日中友好商社第1号の指定を受け、中国との貿易取引を開始。当時は改革開放前の中国であり苦労も多かったようですが、この頃から中国貿易のパイオニアとして活躍をしています。
・70年代~80年代
設立以来業績を順調に伸ばしていった蝶理は、1970年には売上高で3,000億円を超えるまでに成長しました。
当時の総合商社の売上高を見ると、伊藤忠が2.2兆円、住友商事が1.7兆円、兼松が0.8兆円、ニチメンが0.8兆円といった水準であり、蝶理は準総合商社ともいえるポジションでした。学生の就職人気企業のトップ10近くにも位置していたようです。
しかし、好事魔多し。不動産取引の失敗で一度目の経営危機を迎えます。
1975年~79年度にかけて累計▲300億円強の経常損失を計上。過去20年間の経常利益合計が+186億円ですので、これまでの利益を全て吹き飛ばしてしまい、債務超過・倒産の危機に陥りました。
この時は、取引銀行と主要取引先の東レ・帝人・旭化成の支援を受けて経営再建を行ったものの、自己資本比率は一桁台前半と安全性に欠けたままであり、90年代以降に経営危機が再燃する伏線になってしまいました。
・90年代~00年代前半
バブル期(80年代後半~90年代)には蝶理も売上高を伸ばし、1992年度には過去最高売上(7,755億円)を記録します。
しかし、バブル崩壊により財テクと不動産取引の失敗(またか)が表面化。再び銀行と主要取引先の支援を受けて経営再建を行うこととなりますが、日本経済の低迷もあり、中々過剰債務から抜け出せませんでした。
その後、2003年に東レから着任した田中健一氏が社長に着任すると、取引先の債務免除、優先株の発行による資本増強、収益性の低い事業からの撤退等によって、ようやっと財務の建て直しに成功。(この時の様子は、田中氏の著書『仏の心で鬼になれ。:「上司道」を極める20の言葉』に詳しいです。)
・00年代後半~
再建に成功した蝶理は、収益性を重視した規律ある事業展開を意識しており、売上高はなおもピーク時の半分以下に留まっていますが、利益ベースでは2018年度に過去最高益を達成する等、見事に復活しました。
(2)蝶理の事業構成
蝶理の事業は、大きく「繊維事業」と「化学品・機械事業」に分かれています。出典:個人投資家向け会社説明会資料(19年3月16日) |
①繊維事業
祖業である繊維事業は売上高1,113億円と全社の36%を占めています。繊維商社というのは、基本的にはアパレルメーカー向けに原料の糸やテキスタイル、完成品の衣料品を販売するビジネスです。近年は、繊維商社が原料や縫製工場、物流等を全て手配したうえで、指示されたものを作るOEM、提案しながら作るODMという商売が主流となっています。
同業他社と比べた特徴としては、自動車シート用の素材に強みを持っていること、中東エリア向けのビジネスの規模が大きい点が挙げられます。
自動車用シートについては、トヨタ車(アクア、クラウン、カムリ等)、ホンダ車(フィット、N BOX等)、スズキ車(ワゴンR、スイフト等)といった幅広いメーカーに納入しており、国内では原料で60%、ファブリックで25%のシェアを有しています。
また中東向けビジネスについては、トーブと呼ばれる民族衣装で2割ほどの販売シェアを持っているとのことです。
②化学品・機械事業
化学品・機械事業は売上高1,984億円と全社の64%を占めています。化学品ビジネスについては、ウレタンの原料や医薬農薬の中間体、ディスプレイ用のガラス原料等が主な取扱い商品となっています。
日中間の輸出入のほか、近年は3国間貿易にも力点を置いています。
面白いところでは、某エナジードリンク向けに、20年以上も原材料供給を続けているのだそうです。
機械ビジネスについては、チリ・ボリビア・ペルーといった南米諸国への日本車の輸出が主体となっています。
メーカー別ではスズキ車に強いようです。ジムニーなんかは世界でも人気ありますよね。
事業の概要は以上の通りです。
「蝶理が他のアパレル商社と何が違うのか」と問われれば、「取扱い商材の多さや展開地域の広さです」と答えられます。
一般的なアパレル商社と、トレーディング主体だったかつての総合商社の中間に位置するような企業というイメージです。
2.蝶理の財務状況
(1)財務数値
改めて蝶理の過去15年程度の業績推移を確認します。数値は各年度の有価証券報告書における「主要な経営指標等の推移」を拾いました。
ここ数年ほどは、10%前後のROEを維持できています。
(2)資産価値
収益面と合せて資産面も確認します。まず財務の健全性から
蝶理は創業以来、50年近く自己資本比率が一桁台であり、この「財務の脆弱さ」が弱点として付きまとってきました。
しかし、2003年頃の抜本的な再建策の実行と、その後の利益の積上げにより自己資本比率は44.6%まで改善。過去の経営危機を知る社員にとっては、「ここまで来たか」と感慨深いのではないでしょうか。
次にベンジャミングレアムの提唱した「正味流動資産価値」を見ます。
直近決算(19年3月期第3四半期)における蝶理の正味流動資産は333億円(流動資産989億円-総負債656億円)であり、一方の時価総額は382億円(自社株を除くベース)。
グレアム銘柄とまでは言えないものの、ROEが二桁水準の企業にしては割安感があると思います。
(3)成長性
中期経営計画では、19年度において売上高3,300億円、経常利益85億円、当期利益55億円を目指しており、この目標については1年前倒しで達成できそうな状況です。また、2022年度には経常利益で130億円を達成するというビジョンも掲げています。上手くいけば、利益は2016年度と比べて倍増する計算ですね。
過去、収益性の低い事業が経営危機を招いた反省から、総資産利益率(ROA)にもきちんと目標を設定しているものと推測します。
上記計数目標を達成するための基本戦略は以下の通りです。
近年の成長は、M&Aの活用が大きな割合を占めていますので、「新規開発・事業投資、M&A」の部分を少し掘り下げます。
過去のM&A実績を見ると、比較的小粒な繊維商社・化学品商社を頻繁に買収していることが見て取れます。
M&Aは引き続き全社的に重要な施策として考えており、M&A推進委員会を年間20回くらい、月に1回以上開いています。(中略)M&Aの方針は、まったく飛び地のところは対象にせず、取りあえず今のビジネスの延長線上で幅だしが出来るもの、具体的には商売として分かる業界の案件を対象にしていくことです。そのほか、M&Aを実行しても自己資本比率やROA(総資産利益率)が一定の水準以下にならないといった基準を設け、身の丈に合った買収を意識しながら進めています。
以上の通り、基本的には地続きの分野で手堅い案件を手掛けることを方針としており、変な冒険をしない点は安心感があります。
3.まとめ
最後に現時点(2019年3月末)の蝶理の株価指標を確認します。・予想PER :7.21倍
・実績PBR :0.72倍
・予想配当利回り :3.47%
株価は割安圏ですが、業種的に大きく買われる銘柄でもないので、まぁ適正範囲の割安寄りくらいかなと思います。
なお、蝶理については、アクティビストファンドのストラテジックキャピタルが大幅な増配を求めて株主提案を繰り返しています。
しかし、今の経営陣や親会社の東レは、2000年代の倒産危機を覚えている世代であり、一定の資本は維持したいと思いますので、中々折り合えないのではないでしょうか。
とはいえ、蝶理は過去の経営危機を乗り越えるためにかなり大規模な増資をし、普通株式数は18.1百万株→25.3百万株と4割近く増加(株式併合を考慮)しています。
希薄化という形で株主に負担を強いた過去がありますので、余剰資金があるならば自社株買いに振り向け、経営危機前の水準に流通株式数を減らしていく、なんて落としどころはいかがでしょうか?
なお、投資は自己判断でお願いいたします。
(参考文献)
・化学経済 2015年5月号
・蝶理設立60周年記念誌
本ブログ内で銘柄分析を行った企業の一覧を作成しました。
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