「KAM」がComing Soon~監査上の主要な検討事項

どーも、相場の養分かもねぎです。

3月期決算の上場企業が続々と決算発表を行う時期となってきました。
僕はウマを育成したり、興味のある企業の決算説明資料を読んだり、ウマを育成したりしながら忙しく過ごしております。

さて今日は、2021年3月期決算から全面的に導入される「監査上の主要な検討事項(KAM)」という制度に触れてみます。

おそらく上場会社の開示担当者・アナリスト・会計士くらいしか興味がないマニアックな論点ですが、個人投資家にとっても意義ある仕組みと思われましたので、自分の頭の整理を兼ねています。

目次
1.上場企業の決算書
2.監査上の主要な検討事項(KAM)
3.まとめ

1.上場企業の決算書

上場会社が投資家向けに発表する決算書は2種類あります。

一つは、決算日から45日以内に開示される「決算短信」、もう一つは3か月以内に作成される「有価証券報告書」です。

「決算短信」は投資判断のための速報版、「有価証券報告書」は情報の網羅性・正確性を重視した完全版といったイメージですね。
※正確には会社法による決算書もあります。

上場会社は、公認会計士による財務諸表監査を受ける必要があり、有価証券報告書の一番最後のページを見ると「独立監査人の監査報告書」が添付されています。

会計士の先生方は、専門知識に基づいて非常に高度な監査業務を実施しているわけですが、その最終的な成果物である「監査報告書」は基本的には定型文が記載されているだけ、それを見ても何か面白い情報が載っているわけではありません。

この、無味乾燥だった「監査報告書」が、2021年3月期決算より、大幅に充実した内容に変化することとなりました。

それが、監査上の主要な検討事項KAM(Key Audit Matters)」という制度改正です。

2.監査上の主要な検討事項(KAM)

とはなんぞや。

ひらたく言うと、監査報告書の中で

財務諸表監査の中で重点的にチェックした箇所はここですよ~

と説明してくれることです。

(1)背景

2015年に発覚した東芝による大規模な粉飾決算が、制度導入のきっかけとなりました。

会計監査の信頼性を確保するためにどのような取組みを講じるべきか

従来の会計監査の問題点の一つとして、「監査意見に至る監査のプロセスに関する情報が十分に提供されず、監査の内容が見えにくい」という点が挙げられました。

この課題に対する対応として、諸外国の取り組みを参考にしつつ、監査人が着目した会計監査上のリスク等を記載するルールが設けられました。(監査報告書の透明化)

(参考)
「監査報告書の透明化」について(金融庁:平成29年6月26日)
「監査基準の改訂に関する意見書」の公表について(企業会計審議会:平成30年7月6日)

(2)具体的には

財務諸表監査の中で重点的にチェックした箇所(監査上の主要な検討事項)について

①決算書のどの部分か
②なぜ重点的にチェックしたのか
③どのようなチェックをしたのか

を説明してくれます。

上記の①~③を、それぞれ
①監査上の主要な検討事項の内容
②監査人が監査上の主要な検討事項であると決定した理由
③監査における監査人の対応

と呼んでいます。

(3)早期適用事例

すでに本基準を適用しているKAM早期適用会社が40社強あります。

主な企業としては、トヨタ・ホンダ・ソニー・キヤノン・武田薬品・日立製作所といった日本を代表する製造業であったり、3メガバンや野村證券・大和証券・JPXといった資本市場に関係の深い会社です。
面白いところでは、ALSOK、綿半ホールディングス、AOKIといった中堅企業で対応しているところもありました。

いくつか事例を紹介します。

①本田技研工業

2020年3月期決算における監査上の主要な検討事項(KAM)として、製品リコールに備えた「製品保証引当金」や、米国金融子会社におけるオペレーティングリース料の見積もり等が選定されました。

自動車会社は、製品のリコールが起きた場合、多額の損失を計上する潜在的リスクがあります。

また、米国ではリースで車を購入する個人が多く、中古車価格が急落しているとリース債権の価値も大きく下落するそうです。

いずれもリスクが顕在化した場合に、大きな減損損失を計上する可能性のある項目です。KAMでは、どのような会計処理が行われ、監査法人がどういった視点でチェックしたか記載されますので、投資先企業のリスク要因を把握することが出来ます。

②AOKIホールディングス

紳士服小売り、複合カフェ業態を展開するAOKIホールディングスは、新型コロナウイルス感染症による悪影響を大きく受けた企業の一つです。

悪材料が出た企業への投資はハイリスク・ハイリターンであり、投資家としては現状の財務諸表に悪材料がどれだけ織り込まれているか、資産価値は保守的に評価されているのか、等を慎重に検討したいところです

AOKIホールディングスの2020年3月期決算における監査上の主要な検討事項(KAM)として、「新型コロナウイルス感染症拡大による影響」「ファッション事業における減損会計の適用」等が選定されました。

AOKIの財務諸表に対する注記を見ると、減損会計については次の通りです。

まぁルール通りに減損会計を適用しているんだな、くらいしかわかりません。

次に監査上の主要な検討事項をみます。

こちらを見ると、減損会計の具体的な運用状況が分かります。
減損の兆候の判定にあたっては

・各店舗の営業損益が2年連続マイナス
・各店舗の営業損益がマイナスであり翌期予算もマイナス
・店舗固定資産の時価が著しく下落した場合

が条件とされているため、「大半の店舗は、2期連続赤字という条件にヒットせず、減損の兆候ありとみなされるのは2021年3月期以降だろうな」といった推測ができます。


減損の兆候がある資産の減損損失の認識については、「会社グループ以上の負荷を設定したテストを実施している」と書かれていますので、ここはかなり保守的にチェックされているな、と判断されます。

AOKIホールディングスは過去の利益の積み上げがありますので、早々に倒産するような企業ではありませんが、自己資本が薄く、財務制限条項があるような企業であれば、KAMを通してこういった点を精査できることはありがたいですね。

3.まとめ

少し長文になりますが、監査上の主要な検討事項(KAM)導入の意義を「企業会計審議会」の資料より引用します。
監査報告書における「監査上の主要な検討事項」の記載は、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めることにその意義があり、これにより、 
・ 財務諸表利用者に対して監査のプロセスに関する情報が、監査の品質を評価する新たな検討材料として提供されることで、監査の信頼性向上に資すること 
財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深まるとともに、経営者との対話が促進されること 
(中略)
等の効果が期待される。

投資家にとって「投資先企業の財務諸表に対する理解が深まり、経営者との対話が促進される」という趣旨のコメントがあります。

確かに、KAMを確認することを通して、財務諸表の中に埋もれているリスク要因を理解するとともに、会計処理の具体的な内容を把握することができます。これは長期投資家にとっては有意義な情報であると思います。

特に上場してから年数を経ていない企業や、近年新しく生まれたビジネスに取り組む企業に投資する際には、非常に参考になる情報が得られる可能性がありそうです。

なかなか面白そうな制度が始まりそうだな、と個人的に注目しており、6月に各社の有価証券報告書が開示されたら、気になる企業の「KAM」を読んでみたいな、と思っております。

KAM・カミングスーン!

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