社債を発行して自社株買いをする企業

3日ほど前ですが、米インテル社が自社株買いを目的として社債を発行するというニュースがありました。

以下はロイターのサイトからの転載です。

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「米インテル株大幅高、自社株買いのための社債売り出し好感」
[サンフランシスコ 4日 ロイター]4日の米国株式市場で半導体大手インテル(INTC.O: 株価, 企業情報, レポート)が2.2%高と大幅に上昇した。自社株買いなどを目的とした60億ドルの社債売り出しを好感した。
トムソン・ロイター傘下のIFRによると、インテルが売り出したのは償還期限5年─30年の債券。同社は証券取引委員会(SEC)に提出した文書で、調達資金は自社株買いや運転資金などに充てるとしている。
RBCのアナリスト、ダグ・フリードマン氏は顧客向けノートで「資金調達コストが低いことを踏まえると、今回の社債発行は賢明な判断となるだろう」とし、インテルは自社株買いを拡大する公算が大きいとの見方を示した。

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この記事を読んで、改めて「米国企業の経営は洗練されているなあ」と羨ましく思いました。

企業は、有利子負債と株主資本によって資本を調達し、事業を行います。
このうち、有利子負債については「金利」という形でコストを払う必要があります。
他方、株主資本もタダではありません。株主がリスクを投じた資金であるため、一般に有利子負債よりも高い収益性(企業にとってはコスト)が課されます。

具体的には、無リスク資産の収益率にリスクプレミアムを足した数値が株主資本コストとなります。今の日本で言えば、10年国債の利回り0.7%にリスクプレミアム4~6%を加算した4.7%~6.7%といったところでしょうか。(なお、ここではβ値は考慮せず)

現在のような低金利の状況では、大半の企業で有利子負債コストが株主資本コストを下回っています。従って、インテル社のように社債を発行し自社株買いを行えば、企業の加重平均資本コスト(WACC)を引き下げることが出来るというメリットがあります。

さて、昨今の日本企業の経営者で、「有利子負債には金利が掛かるが、金利の掛からない自己資本はコストが低い」などと考えている人は流石にいない(と信じたいのですが)、全般に低収益に甘んじている企業や、豊富な手元流動性を持っているのに増資を試みる企業が多くあります。

こういう企業が良く用いるエクスキューズとして、「企業は株主だけのものでは無く、従業員や取引先、地域社会など様々なステークホルダーのために存在しているのです(キリッ」的な発言があります。これは、理念としては素晴らしい内容だと思います。

しかし、資本コストを下回る利益しか計上出来ず、株主の期待に応えられていない企業や、無意味な増資を行う経営者が言った場合、「株主をないがしろにしておいて何を」と思わざるを得ません。

日本企業の収益力が低いことや、日本市場のリターンが低い理由には、上記のような低収益・低資本効率企業に甘い風潮が一つの原因であると思います。

従って、「社会活動の前に本業でそれなりの利益を出すこと」、「無駄な資金は配当や自社株買いで還元すること」といった株主として当然の権利をしっかり主張することが、日本企業・株式市場の発展に繋がるのかなと思う次第です。

※本記事は、旧ブログで2012年に作成した記事をBloggerへ移転したものです。


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